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高松高等裁判所 平成6年(ネ)365号 判決 1995年6月26日

主文

一  原判決を取り消す

二  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

主文同旨

第二  事実関係

一  被控訴人らの請求原因

1  吉田正義は、平成三年一一月一五日に死亡した。その法定相続人は、妻の吉田ミナヱ、子である控訴人、被控訴人ら及び森野利子の四名である。

2  正義作成の昭和六二年一二月六日付け自筆証書による原判決別紙第一遺言目録記載のとおりの遺言(以下「甲遺言」という。)に基づき、正義所有の原判決別紙第一ないし第三物件目録記載の各不動産につき、控訴人を所有名義人とする平成四年九月一四日受付所有権移転登記がされた。

3  甲遺言後、正義は、平成二年三月四日付け自筆証書によって、原判決別紙第二遺言目録記載のとおりの遺言(以下「乙遺言」という。)をした。

4  したがって、乙遺言により、甲遺言は失効したから、被控訴人らは、各自、控訴人に対し、原判決別紙第一ないし第三物件目録記載の各不動産について、請求原因2の所有権の登記を被控訴人ら(各持分八分の一)及び控訴人(持分八分の六)とする共有の登記に更正する登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

三  抗弁

1  正義は、平成二年一一月八日付け自筆証書によって、原判決別紙第四遺言目録記載のとおりの遺言(以下「丙遺言」という。)をした。

2  正義は、甲遺言を田岡弁護士のもとで作成し、また、乙遺言を作成した日に被控訴人糸川惠美子に渡したから、丙遺言でいう、「被控訴人糸川惠美子に渡した遺言状」とは、乙遺言であり、「田岡弁護士のもとで作成したもの」とは、甲遺言である。

3  したがって、正義は、丙遺言によって、甲遺言と同一の内容の新たな遺言をした。仮にそうでないとしても、丙遺言によって、正義が田岡弁護士のもとで作成した甲遺言を復活させようと欲したことが明らかであるから、民法一○二五条但書の類推適用により、甲遺言が復活する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁の1の事実を認め、同2の事実は不知。

2  抗弁の3の主張は争う。丙遺言が無効とし、有効とする各遺言が、丙遺言の記載自体から不明確であり、被控訴人らの主張するように、正義が丙遺言により、甲遺言と同一の内容の新たな遺言をしたものということはできない。正義が甲遺言と同一の内容の新たな遺言をしようという意思があったのであれば、甲遺言と同一文言の遺言書を作成することが必要であった。仮に、丙遺言が、甲遺言を撤回した乙遺言を撤回するものであるとしても、民法一○二五条本文により、遺言を撤回する遺言が撤回されても、一度撤回された遺言は効力を回復しないと定められているから、甲遺言は復活しない。

第三  当裁判所の判断

一  請求原因について

請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  抗弁の1の事実は、当事者間に争いがない。

2  ところで、証拠(甲七・八の各1・2、一○の1・2、乙五、証人吉田ミナヱ、控訴人本人、被控訴人糸川惠美子本人)を総合すると、正義は、昭和六二年一二月六日、観音寺市内の自宅に田岡敬造弁護士に来てもらい、その立会いの下に甲遺言書(甲七の1)を作成し、その後、平成二年三月四日には、前記自宅において、被控訴人糸川惠美子及びその夫の糸川佳夫の両名に遺言を述べ、両名が作成した原稿を清書する方法で、乙遺言書(甲八の1)を作成して被控訴人糸川惠美子に渡したが、その結果どういうことになるかを妻の吉田ミナヱを介し田岡弁護士に相談したところ、後の遺言の方が有効になると聞き、同年一一月八日、甲遺言を復活させるためミナヱ立会いの下丙遺言書(甲一○の1)を作成した事実を認めることができる。

3  以上に認定した事実関係の下において、丙遺言によって、正義が、甲遺言と同一の内容の新たな遺言をしたものということはできないが、乙遺言を無効として、甲遺言を復活させることを欲していたことは明らかである。ところで、このように遺言者の意思が明らかな場合においては、遺言自由の原則に照らし、できるだけ遺言者の意思を尊重するのが相当であるから、民法一○二五条の規定にかかわらず、正義の意思に即し、甲遺言の復活を認むべきである。

したがって、抗弁は理由がある。

三  そうすると、被控訴人らの請求は理由がないから棄却すべきであるのに、これを認容した原判決は失当で、本件控訴は理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

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